ホトトギス(杜鵑草)は、ユリ科ホトトギス属の耐寒性多年草です。
その名称は、花びらにある紫色の斑紋が野鳥のホトトギスの胸の斑紋と似ている事から付けられたとされていますが、植物のホトトギスを目にする機会に比べると、野鳥の方の胸の斑紋を観察する機会は滅多にないでしょう。
また、図鑑などで斑紋を比較するとそのものズバリとは言い難い気もします。例えば、「鳴いて血を吐くホトトギス」で馴染み深い夭折の俳人・正岡子規の雅号である子規もホトトギスの異名で、これは中国の故事「杜鵑の吐血」にちなんだと言う事なので、こちらも実際に野鳥と植物を見比べながら命名したのでは無いのかも知れませんね…。
更に、ほとんど使われませんが、油点草の別名で呼ばれる事もあります。これは、若葉に油染みのような斑点が入る事に由来しています。
なお、英名はToad Lily(ヒキガエルのユリ)で、これは花の斑点をヒキガエルの斑点に見立てたとされています。
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ホトトギス属の植物の品種数
ホトトギス属の植物は、現在19種が確認されていますが、その全てが日本、台湾、朝鮮半島に分布し、その内、12種が日本列島に分布しており、中でも10種は日本だけに生育する日本固有種となります。
この分布の様子から、日本はホトトギス属の分化の中心地と考えられます。
ホトトギス属をもう1段下の節レベルで分類すると、4つのグループに分けられます。
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1.ジョウロウホトトギス節
1つ目はジョウロウホトトギス(上臈杜鵑草)節で、黄色の釣り鐘型の花冠が特徴的です。ジョウロウホトトギス、キイジョウロウホトトギス、サガミジョウロウホトトギスの3種がこのグループです。
なお、時折、“ジョロウホトトギス”“女郎ホトトギス”などと記載されている物を見かけますがこれは誤りで、身分の高い男子や女子、地位の高い女官や御殿女中を指す“上臈(ジョウロウ)”に由来するのが正しい名称です。
2.キバナノホトトギス節
2つ目は、キバナノホトトギス(黄花杜鵑草)節で、上向きに咲く黄色い花を着け茎に開出毛が出ます。
キバナノホトトギス、チャボホトトギス、タカクマホトトギス、キバナノツキヌキホトトギスの4種がこのグループです。
以上の2つの節は全て日本固有種です。
3.ホトトギス節
3つ目はホトトギス(杜鵑草)節で、上向きに咲く白い花を着け、茎に斜上する毛が出ます。
ホトトギスとタイワンホトトギスの2種がこのグループです。
4.ヤマホトトギス節
4つ目はヤマホトトギス(山杜鵑草)節で、上向きに白または黄色い花を咲かせ、茎に斜め下向きの毛が出ます。
全7種からなり、日本にはヤマホトトギス、ヤマジノホトトギス、セトウチホトトギス、タマガワホトトギスの4種が分布しています。
ホトトギスの種類について
以前は一般的に市販されているホトトギスと言えば、オーソドックスなホトトギスか、ホトトギスとタイワンホトトギスの交配種、斑紋が無い変種のシロホトトギス程度でしたが、かつてはマニア向け山野草扱いで細々と取引が行われていたようなキイジョウロウホトトギスなども、近年では大手種苗会社が取り扱うようになっています。
また、交配種の開発も盛んで、大概が一般的な環境で丈夫に育つ品種となっています。品種名での見分け方は、例えばホトトギス「白楽天」のように、ホトトギス+「銘」となっている事が多いです。
育成の難易度を比較すると、全くの初心者でもほとんど手間を掛けずに育てられる一般的な園芸品種に対し、それなりのベテランでもうっかりやらかして枯らしてしまう事があるのが原種系の品種と言ったところでしょうか…。
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ホトトギスの栽培時期と育成条件
- 日当たり:半日陰~日陰
- 土壌酸度:中性~弱酸性
- 植えつけ時期:3月~4月中旬頃
- 開花時期:7月~10月頃(品種により異なります)
流通形態
通常は3号ポット程度の苗で販売され、価格は品種などにより異なり300円台~1,500円程度と言ったところでしょうか。
植えつけ場所の準備
キイジョウロウホトトギスなどの枝垂れる品種や他の植物との競争に弱いキバナノホトトギス系以外の品種は、基本的に地植えで差し支えありません。
ホトトギスやタイワンホトトギスの交配種などは、強い日差しにも耐えるので日なたに植えても平気ですが、ホトトギスを栽培する上でのメリットは他の植物が嫌う直射光が差し込まない日陰を特に好む点です。苔やシダ類しか生えないような塀ぎわや木陰、家屋の北側などに最適です。
枝垂れる品種は、元々、自生地では崖などから下垂しながら成長しているので、葉や茎の重さでほぼ地際から枝垂れだして驚くほど垂れ下がります。蘭鉢などの腰高な鉢を利用し、更に台などの上に置くのが良いでしょう。
植えつけ
かなり湿気を好む植物ですが、かと言ってビチャビチャの土壌が良いわけでもありません。
1ヶ月くらい前までに、ある程度の深さまで掘り返して石灰を施用し、日向土6:赤玉土3:硬質鹿沼土1程度の割合の土か市販の草花用培養土を入れればベストですが、通常のホトトギスやタイワンホトトギス系の場合、特に環境が悪くなければ掘り返して耕すだけでも構いません。
その際に元肥としてリン酸の多い遅効性の化成肥料を、一株当たり小さじ半分程度用土に混ぜておけば良いでしょう。
なお、タイワンホトトギス系などは地下茎でかなりの勢いで増えるので、場合によっては植えつけの際に仕切り板などを入れて生育範囲が広がり過ぎないようにしておくと後々の管理が楽になります。
気難しい品種を鉢植えにする場合には、市販の山野草用培養土で良いでしょう。当然、鉢は日陰に置き管理します。植えつけが終わったら、たっぷりと灌水して作業終了です。
水やり
地植えの場合には、その環境により大きな差が出ます。湿気が強い場所ならば、水やりは一切不要ですし、逆に風通しが良かったり、乾きやすい場所ならば、状況に応じて灌水してください。通常は盛夏に水撒きをする以外は降雨で充分だと思います。
鉢植の場合には、表土が乾いたら充分に与えます。また、特に原種系などの品種の場合は、霧吹きなどで葉に水分を与え、乾燥で葉が傷まないように注意します。
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肥料
地植えの場合、教科書的には3月~5月に完熟油かす団子を月1回ペースで施肥する事になっていますが、草花用の錠剤型の緩効性肥料などを気が向いたら使用する程度で差し支えありません。
6~9月には、例えば「ハイポネックス・ハイグレード開花促進」などの花芽形成に役立つリン酸が多く、窒素の少ない液肥を規定量の半分に薄めて月2回程度施肥すると良いでしょう。
山野草に近い植物は、基本的に肥料を控え目にした方が良い物が多いです。特に草花から野菜まで幅広く使用可能を謳っている汎用型肥料の場合、過保護に肥料を与え過ぎると、葉や根ばかりが逞しく育ち過ぎてしまうので要注意。葉野菜用の肥料が手元にあったので間に合わせに…なんてのは論外です。
誘引
品種や環境によっては支柱を立ててやると良いでしょう。
時期的には5月~6月頃、高さや茎の強度、風当たりなどを考慮して判断してください。
植え替えと増やし方
植え替えと増やし方
植え替えは、まだ寒さの残る2月~3月頃に行います。
- 鉢植えの場合は、出来れば毎年、少なくとも2年に1回は行って、株が混み合い過ぎないようにします。
- 地植えの場合も、3年に1回程度は行いたいところです。
植え替えの際、自然に分かれている部分で簡単に株分けできるので、容易に増やす事が可能です。
挿し木での増やし方
また、挿し木でも比較的容易に増やせます。
5月~6月頃に葉を3~4枚つけた2節程の長さに茎を切り取り、下の方の葉を取り除いて市販の挿し木用の土などを利用して挿すと良いでしょう。
種子での増やし方
種子からも増やす事が可能です。11月~12月頃に採取した種子を乾燥した状態で保存して翌年2月~3月頃に蒔きますが、こぼれダネが発芽して勝手に増える事も多いです。
なお、園芸用の交配種の場合には、他の植物と同様、正しく親株の持つ優れた特性が遺伝するわけではありません。
また、数種類のホトトギスを近接して植えている場合には交雑種も発生します。数年経ったら見栄えのしない花だらけ…なんて事にもなり兼ねないので、未成熟の段階で種子を摘むなどの対策を講じた方が良いでしょう。
病害虫
糸状菌(かび)による白絹病と、アブラムシが媒介するモザイク病が発生する事があります。両者ともに登録防除薬剤がありませんので、発見次第、抜去するしかありません。
白絹病は石灰施用により土壌pHを高くして予防する事がある程度は可能ですが、基本的に日当たりの悪く湿気の多い場所を好む植物なので、早めに発見して被害の拡大を抑えるしかありません。
害虫としては、湿気の多い場所を好むナメクジやカタツムリが、柔らかい若葉や新芽を食べます。捕殺したり駆除剤の使用で対処します。
また、葉を食害するケムシなどの害虫が春先から発生するので要注意です。
おわりに
茶花にもなる純和風なホトトギスですが、最近の園芸品種は洋風の庭にもマッチするモダンな印象の物も多いので選択肢も増えています。
ある程度の力量が身についたなら、是非、キイジョウロウホトトギスにチャレンジしてみてください。気品のある姿にきっと惚れ惚れしますよ!
以上、ホトトギスの育て方をまとめてみました。