寒い時期の鉢花の代表格であるシクラメンは、サクラソウ科シクラメン属に属する地中海地方が原産の球根植物(多年草)です。
和名の「カガリビバナ」の方はその姿形からの命名ですが、もうひとつの「ブタノマンジュウ」の方は古い英名の「sow-bread(雌豚のパン)」を直訳した物です。なお、実際のところ、豚が特にシクラメンの球根を好んで食べると言うわけでも無いそうです。
また、球根にはサポニン配糖体シクラミンと言う有毒物質が含まれていますので、間違っても「おいしいか試食してみよう」などと言う考えを起こさないで下さいよ。
近年では特に大輪のフリル咲き、八重咲きなど見栄えのする品種が比較的手頃な価格で流通している関係で、歳暮や新年の贈答品用途やフラワーアレンジメントに代えての利用などで幅広く用いられる事も多くなっている様です。
ただし、凄く縁起を担ぐ方に贈る場合には、語呂合わせで「死苦」ラメンになるやら「カガリビバナ」で火事を連想する…とか何かとややこしい事を言う人もいるので避けた方が無難かも知れませんね。
ちなみに、かつて「シクラメンのかほり」なんて唄が大流行した頃には存在しなかった芳香性のシクラメンも開発され、最近では他の品種と変わらぬ価格帯で普通に流通していたりします。
また、ゴージャスな品種の市場投入が進む一方、逆に耐寒性のある原種のシクラメンを元に育成された小型で強健な「ガーデンシクラメン」なども、庭先などへの地植えも可能と言う事で人気が出て来ています。
シクラメンの栽培時期と育成条件
- 日当たり:日なた(夏越し時は日陰で管理)
- 土壌酸度:中性〜弱酸性
- 生育適温:5〜20℃
- 開花時期:10月〜4月頃
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流通形態
一般的な「シクラメン」の場合、そのまま継続して栽培・観賞が可能な鉢植えで流通する事も多いですが、ポット苗を飾り鉢や鉢カバーに入れただけと言う状態で、見た目は素敵だけれども色々と問題が多い形で売られている事も結構あります。
「ガーデンシクラメン」の場合にはポット苗のみとなります。
植えつけ場所の準備
ちゃんとした鉢植えになっている場合には、特に植え替える必要もありません。
ポット苗の「シクラメン」の場合には、可能ならば「底面給水鉢」を用意すると良いでしょう。と言うのも、「シクラメン」は水切れに弱いのですが、球根が濡れるとカビが生え易く腐り易いのです。開花期間中に枯らしてしまう原因は、ほとんどは水やり絡みと言っても過言ではありません。
ポット径より一回り大きい「底面給水鉢」と、培養土(「シクラメン用培養土」なんてのもありますが、今回は鉢と苗の隙間を埋める程度なので汎用の培養土でも充分です)を揃えておきましょう。
「ガーデンシクラメン」の場合には、地植えにするのであれば4週間程度前までに耕して苦土石灰を混ぜて土壌の中和と消毒を行っておきます。その後、2週間程度前の時点で腐葉土と規定量通りの緩効性肥料を混ぜ込んで準備完了です。シクラメン用の肥料なども市販されているので利用すると良いでしょう。
なお、あまり寒くなってからだと根の成長が弱くなるので、地域によって異なりますが11月中旬頃までには植えつけておきたいものです。
プランターの場合は、「シクラメン用培養土」を使用するのがベストですが、汎用の培養土でも全く問題はありません。
植えつけ
ポット苗の「シクラメン」を「底面給水鉢」に根鉢を崩さないまま入れて培養土で鉢との隙間を埋めて完成です。なお、必ず球根の頭部が地表に露出する様にして下さい。土に埋もれると蒸れて腐ります。
鉢の横の給水穴に水を入れたら作業終了です。
「ガーデンシクラメン」を地植えする場合にも、ポット苗と同程度の穴を掘って根鉢を崩さず植えるだけです。こちらも同様に必ず球根の頭部が地表に露出する様にします。
基本的に「ガーデンシクラメン」は株自体が横に大きく成長する事はありません。従って、葉先が触れ合う程度まで密に植えたり、寄せ植えを楽しんだりに最適な品種ではありますが、かと言って、あまり極端に間隔を詰め過ぎると風通しが悪く蒸れてしまうので、そこら辺を考慮しながら植えて下さい。
冷え込みが厳しい土地では、ウッドチップやバークなどでマルチングしておくのも良いでしょう。
プランター植えにする場合も同様に、根鉢を崩さず球根の頭部が地表に露出する様に植えますが、プランターの上部から2cmのウォータースペースを確保する事を忘れないで下さい。
地植え・プランター植え共に株の周囲にたっぷりと灌水して作業終了です。
水やり
弱い品種の場合には、水切れで萎えてしまったが最後、二度と草勢が回復することなく終わってしまう事もあります。「底面給水鉢」に植わっている場合でも、油断せずに毎日満タンにしておく位の慎重さが必要です。
ガーデンシクラメンは、地植えの場合には環境により異なります。通常は降雨と土壌からの吸水で充分かと思われますが、冬は晴天日が続き乾燥しやすいので、日頃から観察して極端に乾いているようならば灌水して下さい。
また、密に植えたプランターの場合は、特に乾燥するので、状況に応じて毎日でも灌水して下さい。
なお、冬期の灌水は他の植物と同様に朝のうちに行って、夜間の気温低下によるダメージを避けるようにしましょう。
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肥料
花期には、錠剤型などの緩効性肥料を定期的に置き、更に週1回のペースで液肥を施肥します。
底面給水鉢の場合は、週1回のペースで規定量より薄目の液肥を水代わりに入れてやります。また、「シクラメン底面給水活力液」なんて商品も出ているので検討するしてみるのも良いかも知れません。
花がらと枯れ葉の除去、葉組み
咲き終わった花は早めに根本から抜き取ります。また、黄変した葉は緑色に戻る事は無いので、こちらも早めに根元から抜き取ります。どちらもカビや腐敗の原因となるので、こまめに掃除して下さい。
特に勢いのある葉の下に隠れている黄変した小さい葉などはすぐ腐るので要注意です。週に1度は徹底的に葉の下を観察するようにしましょう。
球根の頂部にある芽に日光を当てて生育を促し、また、花を中央に集めて株姿を整えるために、適宜「葉組み」を行います。株の中央から出た葉を外側の方の古い葉の下へ移して、脇に向かって生えた蕾を中央へと誘導する感じです。週に1度の葉の下の観察と併せて行うと良いでしょう。
鉢の置き場所
教科書的な表現では「寒さに弱いので日当たりの良い窓辺で…」なんて事になっていますが、あれはサッシや断熱材が普及する以前の昔の日本家屋のお話です。温度計を置いて計ってみると晴天時の窓辺は30℃近くになっていたりする事もあります。これは生育適温が5〜20℃のシクラメンにはかなり酷な環境です。
例えば、南関東以西の太平洋岸などでは、家屋の南面など、北風の影響を受けない場所が普通に5〜20℃なのではないでしょうか?また、マンションの中層階程度の南面ベランダであれば、最低気温も5℃以上の条件もクリアできていたりしますからね。
何度チャレンジしても枯らしてしまう場合、存外、ベランダに置いて管理した方が良かったなんて事もあります。風通しの悪い室内で爆発的に増殖するハダニなどもほとんど出ないので駆除の手間もかかりませんし…。
夏越し管理
生育させながら夏を越す非休眠法と、意図的に水を切り球根だけにして夏を越す休眠法の2つの方法がありますが、正直なところ、風通しの良い深い軒先などの環境が無いとどちらも難しいです。昨今、猛暑傾向が続いているので、どんなに頑張っても無理と言う場合も多いでしょう。
どちらかを選ぶとすると、枯れたらわかる非休眠法ですかね…。要は日陰になる風通しの良い涼しい場所に移動して夏を過ごそうと言う話です。
ちなみに、専門の園芸農家などでは暑い時期の生育のみを、冷涼な土地で行っている場合も多いです。
なお、夏越し可能な株は、球根が堅くしっかりしている健康な物のみです。
地植えしたガーデンシクラメンの場合には、一般的にそのまま放置して夏越しにトライします。基本的に普通のシクラメンよりも暑さにも強い傾向があるので生き残る事も多いです。
1株あたりの価格も安いので、消えてしまったら補充する感じで行きましょう。
プランターなどに植えた場合には、根詰まりするので、掘り起こして古い土を落とし傷んだ根を整理して新しい培養土に植え替えます。時期的には涼しくなって来た頃に行うのが良いでしょう。
病害虫
病気は、「灰色カビ病」と「軟腐病」「萎凋病」あたりが代表格です。基本的に土壌に潜んでいた菌が感染するので、未消毒の土の使い回しを避ける事で予防が可能です。
花期である冬は害虫の活動も比較的少ない筈ですが、夏越しの頃は、害虫も活発に活動する時期ですし、アザミウマが媒介する「褐色えそ輪紋病」などもあります。一般的な害虫の防除を心掛けて下さい。
おわりに
夏越しに向く環境に住んでいる猛者で、年明け以降に高価な品種の見切り品を買い込んでは次の花期を楽しみに栽培する人もいます。栽培のポイントを掴んで楽しんで下さい。
以上、シクラメンの育て方をまとめてみました。