昭和50年代頃だったでしょうか?
セントポーリアが大ブームになった事がありました。
冬場の園芸店の店先には、決して安くないお洒落な鉢植えがにぎやかに並んだものでした。
大手種苗メーカーのカタログにも掲載されない事もある位に、少しマイナーな存在となってしまった現状からは想像がつきませんよね。
その理由は、特にレースカーテン越しの日差しでも葉焼けしたり、水やりの加減で簡単に腐ってしまったりする気難しさにあるのでしょう。「アフリカスミレ」と言う和名も災いしたのかも知れません。
アフリカと聞けば強烈な陽光に照らされる灼熱の大地…なイメージがあって「湿気った感じだから風通しの良い場所に置いて今日は健康的に日光浴」なんて事をやりそうですが、それはセントポーリアが最も嫌うものなんですわ。
イワタバコ科セントポーリア属の多年草で、1892年、ドイツ人の自然愛好家であるヴァルター・フォン・セントポール=イレール男爵により東アフリカ・タンザニアの高地で発見され、セントポーリアと言う名は発見者への献名になっています。
明治末期には日本にも導入され「アフリカスミレ」の和名で呼ばれる様になりました。
但し、当時の品種は現行品種より更に育て難かったため、研究者やハイレベルなマニアのみが栽培する程度だったわけですが、花が咲かない植物と認識されていたとの話です。
その後、ドイツやアメリカなどで栽培しやすい園芸品種が開発されて現在に至ります。
最近、なぜセントポーリアの人気に復活の兆しが見えるのかと言えば、それは栽培環境の飛躍的な進歩によるものです。
培養土や肥料の改良、気軽に購入可能な価格帯で販売されている植物育生用のLED照明などにより、かつてのブームの際に問題になった点が全て解決されてしまいました。
逆に日当たりの悪い部屋でも照明を工夫すれば、インテリアグリーンとして栽培可能と言う事です。
昔、痛い目にあった記憶のある方も新たな環境を構築して再挑戦してみてはいかがでしょうか?
セントポーリアの栽培時期と育成条件
日当たり:日陰
土壌酸度:中性〜弱酸性
生育適温:15〜25℃
適正湿度:60〜80%
【流通形態】
鉢植えやポット苗の状態で流通します。
特に「開花株」や「開花見込み株」として販売されているポット苗の場合、入手してすぐに植え替えて根を傷めると様々な問題が発生するので、環境に馴染むまではそのままで、不粋なポットは飾り鉢や鉢カバーなどで隠して楽しみましょう。
なお、お洒落な鉢カバー付きで販売されている物が、実はポットにカバーを被せただけと言う事も多いので、水やりの前に確認しておきましょう。
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植えつけ・植え替えの準備
春と秋の彼岸頃が植えつけ・植え替えの適期になりますが、生育適温の範囲内であれば作業しても問題ありません。
時期では無く環境が大切なので、極端な話、夏場でも25℃以下が維持出来ているのならば平気です。
土壌酸度の調整がややこしいので、市販されているセントポーリア用の専用培養土を利用すると良いでしょう。鉢底用のビーナスライトも準備しておきましょう。
植えつけ・植え替え
ポットや鉢から根土を崩さずに抜いたら、根の状態を観察しながら付いている用土を上下から約3割方程度を落とします。
傷んでいたり、カビっぽくなっている部分を発見したら取り除いて下さい。
手で簡単に抜けない場合はカッターナイフなど清潔な刃物を使います。
鉢底から約3割弱程度までビーナスライトを入れたら、株を載せて培養土を入れます。
その際、培養土は押し込むのではなくフワッと入れる感じです。
鉢底から出るくらいたっぷり灌水したら作業完了です。
植えつけ・植え替え後の株のダメージを最小限に抑えるために、保湿すると良いでしょう。
例えば、ホテルのアメニティにある様な薄くて透明なビニールのシャワーキャップを使えば取り扱いも簡単です。
ドラッグストアや百均で購入できます。
小ぶりな鉢で栽培する事が多いので、通常は年1度の植え替えと考えておくと良いでしょう。
水やり
周囲が多湿なのが好きなのに、根は過湿を好まない植物です。
基本的に土が乾いてから水やりをします。
水をやり過ぎればすぐに根腐れするし、乾き過ぎれば「うどんこ病」が怖いし、ヘタに葉を濡らせば「灰色かび病」も出る…と八方塞がりなのです。
解決策としては、水槽を利用したり、専用の育成ケースやフラワーキャップなどを使って、湿度60〜80%の多湿な環境を維持して下さい。
肥料
比較的、水やりの間隔が開く事になると思います。
水やりの都度、規定量の2〜3倍以下に薄めた液肥を水代わりに施肥しておきましょう。
環境が合えば、ほぼ一年を通して咲き続けるので肥切れさせない様に心掛けるのですが、濃過ぎると肥料焼けするので常に控え目にが正解です。
【鉢の置き場所】
セントポーリアの光合成の光補償点が500ルクス、光飽和点が5,000〜10,000ルクスとされていますが、例えば、日当り抜群の南面の窓辺だと30,000ルクス、レースのカーテン越しでも20,000ルクス位なんて事になってしまいます。
昔は、ここで葉焼けさせて、「弱って来たのは日当りが悪いから?」なんて考えてダメ押しして枯らしてしまっていたわけです。
窓辺に置く場合は、東向きや北向きの直射光が差し込まない場所を選択して下さい。
また、最初の方に書きました植物育生用のLED照明も、スタンドタイプの物が5,000円程度で一般的に流通しています。
例えば、採光が全く無いマンションの玄関周辺などを鉢の置き場所にする事も可能になるので選択肢が広がります。
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【花がら摘み】
多湿で育成するため、特に花がらや枯葉はすぐにカビたり腐ったりするので速やかに摘み取ります。
また、株が古くなると下の方の葉が落ちて茎が露出し、ワサビの茎の様な状態になります。
ワサビ茎からは脇芽が出て来ますが、開花の妨げになる物なので早めに切り落とします。
但し、「トレイル種」の場合は脇芽がたくさん出てこんもりした形に育つのが特徴なので間違えない様にして下さい。
【増やし方】
「脇芽挿し」や「葉挿し」で簡単に増やせます。
増やすだけなら、古株を栽培し続けるよりも、むしろ簡単と言えるのかも知れません。
市販の挿し芽用土などを使えばお手軽です。
花茎部分を使用する「ストーク挿し」と言う上級者向けの方法もあります。
キメラ咲きの株は「脇芽挿し」や「葉挿し」では花の特徴が引き継がれない事が多いのでこの手を使います。
初心者には敷居が高過ぎるので、もう少し腕を上げてから挑戦してみて下さい。
【病害虫】
病気としては「灰色かび病」と「うどんこ病」です。
とにかく花ガラや枯葉を掃除して清潔に保つ事で予防します。
害虫としては「ホコリダニ」と「アブラムシ」に要注意です。
「ホコリダニ」は乾燥すると発生するので環境を整えて予防します。
殺虫殺菌剤である「ベニカXファインスプレー」が、該当する病害虫の全てに適用なので1本買っておきましょう。
但し、いずれも発生初期・発病初期でなければ効果は期待できないので、こまめに観察して先手勝負と行きたいものです。
また、例えば「ハイポネックス原液殺虫剤入り」などは、アブラムシ駆除用の浸透移行性殺虫剤が入った液肥なので検討してみるのも良いでしょう。
【おわりに】
少し前までは、植物育生用LED照明なんて素人が手を出せる価格ではありませんでしたが、最近ではそれにプラスして、育成ケース、専用培養土や液肥と苗などを全て新規に揃えたとしても1万円でお釣りが来るかも…ってお話なんですね。
各分野の細かい進化を重ね合わせると大きな変化になるものですなぁ…。
以上、セントポーリアの育て方をまとめてみました。