草餅やもぐさに利用することでお馴染みのヨモギは、キク科の多年草で基本的に日本全国いたるところに自生している植物です。
繁殖力の非常に旺盛なので、田園風景が広がる郊外にお住まいの方からすると「なんでヨモギなんかの育て方をやるかな?」と思われるかもしれません。
昔ならば、畦道や土手で摘んでくるなんて事が普通だったのですが、最近では厄介者の雑草扱いされる場合も多いため、除草や病害虫の駆除などを目的として、通常では耕作地には用いない食用に適さない薬剤を散布されてしまう例も多いようです。
そこで、今回は安心して食べられるヨモギを育てると言うコンセプトで話を進めてみたいと思います。
Contents
ヨモギの栽培時期と育成条件
日当たり:半日陰〜日なた
土壌酸度:酸度に関係なく生育
収穫時期:3月〜5月中旬頃
ヨモギの流通形態
大手種苗メーカーからは苗の状態で主に秋頃に販売されます。食味が良い若葉を摘むのに適した時期が4月〜5月中旬頃になるので、収穫までに要する期間はほぼ6ヶ月間となります。
通常のヨモギ名で流通する他に、斑入りのヨモギなどは学名である「アルテミシア(Artemisia)」の名前でお洒落っぽく販売されていることもあります。
また、ローカルではタネで販売する業者も多く見られます。
ヨモギの植えつけ場所の準備
繰り返しになりますが、繁殖力が非常に強いため、例えば、耕作放棄地に前述した様にアレロパシーを応用して他の雑草の繁殖を抑制する目的で栽培する…などの明確な目的が無いのならば、“絶対に!”地植えしてはなりません。
逆に拡がり過ぎてしまったヨモギを除草しようとする場合には大変な事になります。ちぎれた地下茎が少しでも残っているとそこから再生するしぶとさ、下手すると刈り取る際に土に紛れた茎が勝手に挿し木になって増えたりもします。
「我が家のお庭の片隅に…」なんて甘い事を考えたらダメですよ。プランターで育てるのが無難かと思います。
培養土は、市販されている園芸用の培養土や、手に入るならば畑土をそのまま用いても結構です。用土に関しては、荒れ地でも平気な植物なので特に神経質になる必要もありません。
また、水はけの良い乾燥した土壌〜水もちの良い土壌の幅広い環境に適応するので、逆にどういった栽培環境がベストなのか?がわからなくなる位です。
ヨモギの植えつけ
苗で入手した場合は、10月〜11月頃に適当な用土を入れたプランターに植えるだけです。
タネの場合は、9月頃にふかふかに耕したところに蒔いて、霧吹きの水で土に紛れ込む程度で良いでしょう。
積んできた物を挿し木する場合には、新芽部分で5〜6cmの長さがあれば活着する可能性はかなり高いです。下葉を取り除いた挿し穂を作って、培養土を入れたプランターに挿して活着するまでは日陰で管理します。
ヨモギの水やり
植えつけ直後、完全に根付くまでの半月間位は念入りに水やりを行いますが、その後は、ごくオーソドックスに「土が乾いたらたっぷり潅水する」パターンで構いません。
また、厳冬期はやや乾燥気味に管理する方が良いでしょう。
ヨモギの肥料
荒れ地でも平気な植物なので、基本的に肥料を必要としません。他のハーブ類と同様に、肥料過多となると葉がたくましく成長し過ぎて食味が落ちるので要注意です。
特に、葉物野菜のように和え物やおひたしなどで使いたい場合は、あわせて、やや遮光気味に栽培するなどの技も色々と試してみて下さい。
ゴソゴソ硬く育ってしまうと美味しくありませんから…。
ヨモギの収穫
収穫の時期は、地域によって生育状況が異なりますが3月頃からです。今年になって新しく出てきた新芽の部分のみを摘み取る形での収穫となります。
具体的には、先端部から15〜20cm程度の辺りで、指先で摘んで軽く切れる部分のみを選択します。
外見上も、葉の色が淡くみずみずしいのでわかりやすいと思います。昨年中に育った葉の色が濃い硬い部分は食味が落ちるので避けて下さい。スポンサーリンク
ヨモギの病害虫
基本的に病気に関する心配は不要ですが、害虫に関しては春や秋のアブラムシには要注意です。
特に春の収穫期に重なりますので殺虫剤も使いたくありません。こまめに確認し発生の初期段階でセロテープを使って捕殺するなどして、爆発的な大量発生を回避するようにして下さい。
秋の発生に関しては薬剤の使用も考慮すると良いでしょう。
ヨモギのアレルゲンに注意!
ヨモギは夏から秋にかけて茎を高く伸ばして目立たない花を咲かせますが、この花の花粉がかなりの厄介ものです。ヨモギの花粉はブタクサと同様に秋の花粉症の代表的なアレルゲンなので、絶対に花を咲かせないように管理します。
特にヨモギ花粉症を発症してしまった場合、食物としてのヨモギのみならず、他の野菜や果物にも反応してしまう「口腔アレルギー症候群(OAS)」を発症しやすくなります。
これは発症すると最悪の場合、ほぼ普通の食生活を送る事が不可能な程、制限する野菜や果物が出て来てしまう強烈なアレルギーで、食べた物によってはアナフィラキシーショックを起こして命にも関わる事のある恐ろしさです。
せっかく、美味しい草餅や草団子を食べようと思って植えたヨモギが元で大変な事になったら洒落にもなりません。ヨモギは、地下茎が元気ならばどうにかなる植物なので、春の収穫が終わったら短く刈り込んでしまうのが良いかも知れませんね。
ヨモギの豆知識1
フーテンの寅さんでお馴染みの葛飾柴又の草だんごも、江戸川の土手に多かったヨモギを使った名産品ですが、土手にヨモギが多いのはなぜなんでしょうね?
これは、例えば、昔ながら工法では、土手の法面などは特にコンクリートなどの擁壁で覆ったりせずに土のままの状態で終了としました。その際、降雨による表面の侵食や風化を防止するために、成長が早く手入れが不要なヨモギのタネを蒔く事が多かったからです。
また、実はヨモギにはセイタカアワダチソウなどと同様に、地下茎などから他の植物の発芽を抑制する物質を分泌する作用(アレロパシー)があるので、他の草丈が高くなる雑草類などの繁茂を抑制する意味もあるわけです。
ヨモギの豆知識2
ちなみに、沖縄料理でフーチバーと呼ばれて使われるヨモギはニシヨモギ(Artemisia indica var. orientalis (Pamp.) H.Hara)で、一般的に見かけるヨモギ(Artemisia indica var. maximowiczii)とは品種が異なります。
旅先で食べた沖縄そばのトッピングや炊き込みご飯(ふーちばじゅーしー)を普通のヨモギで再現しようとしても美味しくはできません。
さらに、沖縄つながりでフーチバーと混同される事も多いリュウキュウヨモギ(Artemisia campestris)は、沖縄ではハママーチと呼ばれている全く別のヨモギでお茶として利用される事が多いです。
また、西洋ヨモギの別名を持つエストラゴン(タラゴン:Artemisia dracunculus)は、フランス料理などに多用されるハーブで白身魚や鶏肉との相性は抜群で、特にエスカルゴには欠かせません。
ニガヨモギ(Artemisia absinthium)は、野球漫画でお馴染みのアブサンやチンザノなどの薬草酒に使用される事でで知られています。
おわりに
ヨモギ自体は、有用な野草のチャンピオンといえる植物ですが、諸刃の剣みたいな感じで「取扱い注意!」な植物です。特性を巧く把握して使いこなしたいものです。
最近では、和風な草餅や草団子の他に、ケーキのスポンジやパンへの応用も増えているみたいで…。意外とバターとの相性が良いんですよね。
以上、ヨモギの育て方をまとめてみました。