アレナリア(Arenaria)は、正式にはナデシコ科ノミノツヅリ(蚤の綴り)属の英名です。
「ノミノツヅリ(蚤の綴り)」なんて知らないよ…と言う方が多いと思いますが、実は道端や庭先で目にする機会は多いものの、特に蔓延って困るわけでもなく、駆除に手こずるわけでもない、存在感が希薄な雑草なので認識していないだけの事です。
「ノミノ」を冠する和名からして小さい雑草だと想像できるかと思います。
我が国の「ノミノツヅリ属」には、他にも全国の山林や草原などで生育する「オオヤマフスマ(大山衾)」、鳥海山にのみ自生する「チョウカイフスマ(鳥海衾)」や雌阿寒岳と知床半島にのみ自生する「メアカンフスマ(雌阿寒衾)」などの5種類が生育しています。
この内「チョウカイフスマ」と「メアカンフスマ」は、一部のマニアが山野草として栽培する事もありますが、冷涼地以外での栽培は比較的難しい部類になるので初心者にはオススメしません。
海外にも目を転じると、チベット、ヒマラヤ、中央アジア、小アジア、地中海沿岸、アンデス山脈なと、北半球の温帯から寒帯にかけて約300種が確認されています。
園芸的に呼ばれる「アレナリア」は、ピレネー山脈からポルトガルの高山地帯を原産地とする「アレナリア・モンタナ(Arenaria montana)」種の事で、これら「ノミノツヅリ属」の中では比較的生育も簡単で、可憐な花を多くつけ匍匐性も強いため、栽培する人も多い植物です。
アレナリアの栽培時期と育成条件
- 日当たり:日なた(夏期は半日陰)
- 土壌酸度:中性~弱アルカリ性
- 開花時期:4月~5月頃
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流通形態
以前は大手種苗メーカーがタネを販売していましたが、最近はカタログ落ちしている模様です。
現状では、ポット苗の状態での販売が主流となっていますが、比較的安定して流通しています。
植えつけ場所の準備
比較的生育も簡単と述べましたが、基本的に高山植物なので高温多湿な環境を嫌います。
耐暑性が普通との記述もありますが、決して強いわけでは無いので、夏場に西日がガンガン当たって終日高温となる花壇などでは、何かひと工夫しなければ夏越しはかなり厳しくなるでしょう。
本来は常緑多年草ですが、一般には一年草扱いされる事もあるほど暑さに弱いと考えてください。
風通しの良いレイズドベッドや水はけの良いロックガーデンで、夏場は日除けを施すなどすると良いかも知れません。
一方、耐寒性は強いので、どちらかと言うと冷涼地向きの品種ではあります。
また、ヨーロッパ原産の山野草なので、酸性土壌と水はけの悪い土地を嫌います。
地植えの場合、植えつけの1ヶ月程度前に、用土1リットル当たり2gの目安の苦土石灰と、軽石小粒や腐葉土を入れ良く耕しておきます。比較的肥沃な土地を好むので、植えつけの1週間程度前には、リン酸分の多い緩効性化成肥料を鋤き込んで準備完了です。
鉢植えやプランター植えの場合、市販の「山野草の土」を利用するのが良いでしょう。こちらも同様に、あらかじめ充分にリン酸分の多い緩効性化成肥料を混ぜておきましょう。
鉢の場合、通気の良いスリット鉢などがオススメです。鉢植えなどの場合、夏場は風通しの良い半日陰に移動して温度の上昇を抑えてやると、夏越しに成功する可能性が高まります。
植えつけ
適期は4月~5月と9月~11月ですが、温暖な土地では秋に植えた方が、初夏の急激な気温上昇によるトラブルが少ないかも知れません。
ポット苗をそのまま植えて、充分に灌水して作業は完了です。
鉢植えの場合は、底穴から濁らない水が出るまで充分に灌水してください。
水やり
水はけの悪い土地を嫌うと述べましたが、一方で水切れにも弱いのでなかなか厄介です。
地植えの場合には、通常は降雨のみでも大丈夫ですが、晴天が続いて土が乾燥気味になるようでしたら、たっぷりと灌水してください。
鉢植えなどの場合は、乾いたら徹底的に灌水してください。特に水抜けの良いスリット鉢などの場合には、夏場は鉢の中の冷却を兼ねて、毎日朝夕に灌水しても大丈夫です。
但し、梅雨時にびしょ濡れ状態が続いたりするのは嫌うので、状況に応じて場所を移動してください。
肥料
3月~5月と10月~11月に一般的な粒状肥料などを規定量散布します。
また、同時期に月に2回程度、薄めの液肥を灌水代わりに施肥しておくと良いでしょう。
剪定
6月~7月と9月~10月に切り戻し剪定を行います。特に花期が終了した直後に剪定する事で、風通しを良く蒸れ難くして夏越しに備えるわけです。
夏越しに無事に成功したら、今度は秋に伸び過ぎた茎を短く切り戻す事で分枝を促します。これは来年の花つきを良くするための剪定となります。
どちらの剪定も、株丈の半分位を目安に積極的に刈り込んでください。
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植え替えと増やし方
植え替え適期は、植えつけ適期と同様に4月~5月と9月~11月です。鉢植えなどの場合は、根詰まりすると成長が悪くなるので、毎年ひとまわり大きな鉢に植え替えると良いでしょう。地植えの場合、3年程度生き残ったなら植え替えて方が成長が良くなるようです。
但し、古くなった株は枯死する事も多いので、挿し芽で更新する方が効率的かも知れません。適期は、4月~5月と9月~10月です。
充実した新芽の先端を3~4cm程度の長さに切ります。切り口に「ルートン」などの発根促進剤を薄く粉のまままぶしてから挿すと活着が良くなります。
もちろん、本格的に挿し芽用の環境を新たに整えるのが正しいのですが、既存の株の近隣や、植えつけ時と同様に「山野草の土」を入れた鉢などに挿しても大丈夫です。
その際、1か所に3芽程度まとめてさすと、素早くこんもりとした株に仕立てられます。
例えば、秋の剪定のついでに、カットした部分を捨てずに挿せば良いわけで、これなら手間が省けますよね。
病気
注意しなければならない主な病気は「立枯病」です。
土中の胞子や菌糸が茎の地際部から侵入して感染します。要はカビの仲間なので、特に梅雨時の発生が多いです。
過湿で発生が多くなるので、株が長時間濡れたままにならないようにして予防します。
薬剤としては「サンケイオーソサイド水和剤80」などがあります。
病害虫
主な害虫としては「アブラムシ」に要注意です。
特に成長期の3月~5月と9月~11月は、アブラムシにとっても絶好の繁殖期なのでこまめな駆除を心掛けます。
基本的に他の植物と同様に風通しが良い環境にしたり、差し支えなければ、浸透移行性の殺虫剤「オルトランDX粒剤」を土壌に散布する事で発生を抑えます。
おわりに
猛暑傾向が益々強くなっている感のある近年の温暖地では、「アレナリア・モンタナ」の夏越しのハードルは高いかも知れません。
ポイントは土中温度を抑える事と風通しに気を配る事です。
根が熱でやられるのと、地上部が湿度でやられるのを避ければどうにか乗り切れます。
それでも、同属の純然たる山野草「チョウカイフスマ」や「メアカンフスマ」あたりに比べたら、かなり簡単な方なんですよね…。
以上、アレナリアの育て方をまとめてみました。